自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

2023-01-01から1年間の記事一覧

僕が跳びはねる理由 2020年

自閉症者の世界を映像で見る イギリス、ジェリー・ロスウェル監督、82分 自閉症の作家、東田直樹が13歳の時に執筆し、世界30ヵ国以上で出版されたエッセイ「自閉症の僕が跳びはねる理由」を原作として、イギリス、インド、アメリカ、シエラレオネに暮…

機械じかけの小児病棟 2005年

シャーロットが子供の骨を折る スペイン、ジャウマ・バラゲロ監督 イギリス、ワイト島のマーシー・フォールズ病院は閉鎖間近で移転の最中だった。そこに夜担当の看護師としてエイミーが赴任してくる。 この病院にはシャーロットという幽霊が現れるという。と…

池田清彦「もうすぐいなくなります 絶滅の生物学」

ネアンデルタール人の男とホモ・サピエンスの女 最初の人類は、いまから700万年前にアフリカに現れたサヘラントロプスだとされている。約60万年前にネアンデルタール人の系統とホモ・サピエンスの系統に分岐する。 私たちにはネアンデルタール人の遺伝…

座頭市物語 1962年

座頭市シリーズの第一作 日本、三隈研次監督、原作は子母沢寛の短篇 天保の頃、下総、旅の途中だった座頭市は地元のヤクザ飯岡助五郎一家に草鞋を脱ぎ、しばらくの間、逗留することになる。 助五郎は新興ヤクザの笹川繁蔵一家と対立していた。しかし笹川一家…

パリ、嘘つきな恋 2018年

大人の恋に嘘はつきもの フランス、フランク・デュボスク監督 シューズ会社の支社長ジョスランは嘘をつきながら女性との浮気を繰り返す軽薄な中年男だった。 亡くなった母親の家でたまたま母親の車いすに座っている時、向かいに住む美女ジュリーが訪ねてきた…

アッシャー家の末裔 1928年(1997年復元)

サイレント末期の怪奇幻想映画の傑作 フランス、ジャン・エプスタイン監督、助監督、脚色ルイス・ブニュエル エドガー・アラン・ポーの3篇の小説を原作としている。48分 難聴の男が友人であるアッシャー家の当主ロデリックから「不安だ、ぜひ来てくれ」と…

モ’ベター・ブルース 1990年

黒い肌のミュージシャンたち アメリカ、スパイク・リー監督 1969年ブルックリン、黒人少年ブリークはトランペットの練習ばかりで友達と遊ぶことができなかった。 やがて彼は才能あるトランぺッターとして自分のバンドをもつようになる。しかしバンド内で…

モーツァルトとクジラ 2004年

知的障害のない自閉症・・アスペルガー症候群の二人 アメリカ、ピーター・ネス監督 アスペルガー症候群の青年ドナルドと同じ障害を抱える女性イザベラのラブストーリー。 二人はドナルドが主催する自閉症者たちの集まりで知り合う。ドナルドは思ったことを言…

中井久夫「戦争と平和 ある観察」初出は2005年

中井は1934年奈良県生まれ、2022年逝去、精神科医、専門は精神病理学 人類がまだ埋葬していないものの代表は戦争である。戦争を知る者が引退するか世を去った時に次の戦争が始まる例が少なくない。戦争の酸鼻な局面をほんとうに知るのは死者だけ。 …

ショコラ 2000年

北風が南風に変るとき アメリカ、ラッセ・ハルストレム監督 1959年の冬、フランスの村ランスケネ、北風にのって赤いマントを纏った母娘がやってきた。母はヴィアンヌ、娘はアヌーク。 母娘は孤独な老女アルマンドから空き店舗を借り、チョコレート店を開…

カモン カモン 2021年

子どもたちの哲学 アメリカ、マイク・ミルズ監督 ラジオジャーナリストのジョニーは妹ヴィヴが精神的な病になった夫の看病をする間、9歳の甥ジェシーの面倒をみることになる。ジェシーは「木は地下の菌類で繋がっている」と得意げに話すような少し変わった…

ブレイディみかこ「ヨーロッパ・コーリング」

「在英20年のライターが、いま欧州に吹く風を日本に届けるべく、熱い思いとクールな筆致で綴った政治時評」 社会保障の削減。貧困の拡大。緊縮財政によって未来を奪われる若者や労働者たち。 地べたから見るグローバリズムとは、労働する者を舐めくさった…

ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた 2018年

人生の中に音楽があり、音楽の中に人生があることの歓び アメリカ、ブレット・ヘイリー監督 ブルックリン、元ミュージシャンのフランクは17年間続けてきたレコード店を閉めることになる。彼の母は認知症で妻は亡くなっていた。娘のサムはロサンゼルスの医…

手紙と線路と小さな奇跡 2021年

一粒の中に三つの味 韓国、イ・ジャンフン監督 1988年に村人たちの手で私設駅として開業された「両元駅」の実話をモチーフにした作品。 線路はあるが、道路がなく駅まで危険な線路上を歩いていかなければならない村。小学4年生のジュンギョンは数学コン…

娘は戦場で生まれた 2019年

生まれた日から戦争ばかり イギリス、シリア、ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ共同監督 2012年、女子大学生だったワアドはアサド政権への反政府運動を始めたことから語り始める。彼女は激化する内戦と殺戮をスマホやデジタルカメラで撮り続…

非情の罠 1955年

67分のフィルムノワール アメリカ、スタンリー・キューブリック監督 マンハッタン、ペンシルベニア駅で誰かを待つ男の回想から始まる。 試合に敗れた29歳のプロボクサー、デイビィは引退を考え、田舎に住む叔父夫婦の牧場で暮らそうとする。彼の部屋から…

黄色い大地 1984年

「♪・・きれいな雄鶏、塀を跳び越え 万民救う共産党♪」 中国、チェン・カイコー監督 撮影はチャン・イーモウ 1939年、国民党の勢力下にある陝西省の山岳地帯にやってきた共産党八路軍の兵士グウ・チン、彼はこの地方の民謡を採集していた。おりしも村で…

國友公司「ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活」

どっこい生きている 西成区の4人に一人が生活保護受給者だが、あいりん地区だけをみれば割合はもっと高く、貧困ビジネスが横行する。元ヤクザやホームレスやシャブ中が徘徊し、社会からドロップアウトした人たちが暮らす町。 新世界国際劇場はオカマの魔窟…

ストックホルムでワルツを 2014年

スウェーデン語で歌う「テイクファイブ」 スウェーデン、ペール・フライ監督 スウェーデンの女性ジャズシンガー、モニカ・デタールンドの半生を映画化した。 1960年頃、ストックホルムから離れた田舎町ハーグフォッシュで電話交換手として働きながらバー…

人生は、時々晴れ 2002年

人生は前にしか進まない イギリス、マイク・リー監督 サウスロンドンの公営住宅に住む労働者階級の3家族を中心にストーリーが展開する。それぞれの家族は問題を抱え、どこか共感できない人ばかりだった。 タクシー運転手のフィル一家、妻ペニーはスーパーの…

林檎とポラロイド 2020年

夢のような奇妙な世界 ギリシア、ポーランド、スロベニア、クリストス・ニク監督 ある夜、バスに乗っていた男は記憶を失っていた。覚えているのは林檎が好きだという事だけだった。 世界では前ぶれもなく記憶喪失が起こるという奇病が蔓延していた。医師たち…

哀しみの街かど 1971年

70年代ジャンキーのリアルな日々 アメリカ、ジェリー・シャッツバーグ監督 堕胎手術で疲れ切ったヘレンは同棲相手の部屋でヤクの売人でジャンキーのボビーと知り合い、彼の優しさに惹かれてゆく。 ボビーはヘレンをニューヨークのニードル・パークと呼ばれ…

村上春樹「品川猿の告白」

現代の御伽草子 作家が寂寥感あふれる群馬県の温泉宿に宿泊する。彼が温泉につかっていると、ガラス戸をガラガラと開けて、猿が低い声で「失礼します」と言って、風呂場に入ってきた。「背中をお流ししましょうか」作家は「ありがとう」と言った。 名前は「…

スウィート・シング 2020年

世界は悲しいけれど幸せな一日はある アメリカ、アレクサンダー・ロックウェル監督 特に好きな映画でもないのに、どうしてもレビューしたくなる作品がたまにある。インディーズ映画「スウィート・シング」はそのような作品だった。 マサチューセッツ州で暮ら…

トムとトーマス 2002年

双子の少年の冒険ファンタジー イギリス、オランダ、エスメ・ラマーズ監督 クリスマスのロンドン、画家の父親と二人で暮らす9歳の少年トーマスには空想上の友達トムがいた。ところがトムは空想ではなく、カーディーン養護施設に実在したのだ。養子だったト…

戦場のブラックボード 2015年

戦争と避難民たち フランス、ベルギー、クリスチャン・カリオン監督 音楽エンニオ・モリコーネ 1940年、ナチスドイツの侵攻で北部フランスの小さな町の住民は市長と共に南部の町ディエップに向かって疎開してゆく。家も財産もすべて捨てて車や馬車や徒歩…

ステップフォード・ワイフ、1975年

いつしか恐怖が沁み込んでくる アメリカ、ブライアン・フォーブス監督 原作はアイラ・レヴィンのSFホラー「ステップフォードの妻たち」 セミプロの写真家ジョアンナは弁護士の夫ウォルターと娘たちと一緒にニューヨークから閑静な田舎町ステップフォードに…